2021年、沖縄でサンゴ保全活動を行う団体・ユニスクとともに発足した「#サンゴ再生チャレンジ」キャンペーンから、今年で2年が経ちます。昨年は、4月をアースデイ月間とし、キャンペーンと合わせて世界のサンゴ礁の現状と、浦底湾のサンゴ礁の経過を報告しつつ、“今、自分たちができること”に想いを巡らせてきました。そして3年目となる今年はこれまでの経過を振り返りつつ、改めて「サンゴ礁を守る」ことから、ドクターブロナーの軸であるオールワンビジョンについて、考えたいと思います。
そもそもなぜドクターブロナーが「サンゴを守る」ために、このようなキャンペーンを立ち上げたのか。
その理由は、サンゴ礁が「海にいる1/4の生きものの住処になっている」からに他なりません。それなのにサンゴ礁の面積は地球の海の0.1%しかなく、2030年頃には絶滅する恐れもあると言われています。すると海の中の生態系が崩れ、人間を含めたすべての生きものは今のように海からのさまざまな恩恵を受けられなくなるのです。それを黙って見過ごせない、という想いから、沖縄を拠点にサンゴを守る活動を行うユニスクと手を取ったのがキャンペーンの発端となります。
そして2021年のアースデイから、#(ハッシュタグ)ひとつにつき、1手のひら分のサンゴを守ることを目標に、集まったハッシュタグ分を寄付という形で、ユニスクの活動資金にしてもらうというのが「#サンゴ再生チャレンジ」キャンペーン概要でした。結果的にサンゴはかなり増えたものの、キャンペーンの土台となる目標の立て方には、反省点や次回への課題が見えました。
ユニスクは浦底湾の海底にワイヤーなどを設置し、そこに流れてきたサンゴを自然と集まるようにしています。「養殖」や「移植」など人工的な方法は使わず、自然の流れで集まったサンゴがその場に留まり増えることでサンゴを守る、という手法です。ですがサンゴが集積される量はすべて自然そのものに委ねられます。この2年間の間に少しずつサンゴが集積しましたが、ときに強い流れで針金が切れて流されてしまったり、そうかと思えば、次の台風の時にまた大量のサンゴが集まったり。ユニスクからの報告は、自然の厳しさや面白さなど、海そのものの現象でした。
私たちもこの取り組みを通して、改めて自然をコントロールしたり、注ぎ込んだ労力分の成果を求めること、それを保証すること自体も無謀だったと気付きました。
またキャンペーン発足当初、「1#につき、サンゴ1手のひら分」と基準を設けていましたが、これらを明確な金額に換算して寄付するという、1手のひら分のサンゴを守るために必要な金額とは? など具体的な金額に換算する難しさもありました。
そこで2023年は一度立ち止まり、この取り組みから見えてきた課題と合わせて、浦底湾のサンゴの現状についてユニスクの内藤明さんへインタビュー。改めて、ドクターブロナーが目指すオールワンビジョンとこれからについて探っていきたいと思います。
―ではまず、改めてこれまでの「#サンゴ再生チャレンジ」キャンペーンの寄付により、整えられた設備について聞かせてください。
「ハッシュタグキャンペーンによる寄付ではじめに導入したのがエアホースやアクアラング(ダイビング機材)です。それまでは海にシュノーケルで潜って作業していたのですが、エアホース等を導入したことで長時間、海中に潜っていられるようになり、調査や作業がとてもスムーズにはこび本当に嬉しく思います。」
―では実際、今どのくらいのサンゴが針金とネットの近辺にあるのでしょうか?
「サンゴ再生チャレンジでは、コンセプトのひとつに「手のひらいっぱい分の」というものがありましたので、ネットの周辺に集まったサンゴを、大人の片手のひらを凹めて作った面積(縦6cm×横3cm)に換算して計測しました。2022年1月の時点で699手のひら分だったものが、12月の時点で5,746手のひら分になっていました。単純計算しても1年間で約8倍以上のサンゴが集まったことになります」
―なんと、すごいですね!
「本当に嬉しいですし、何より結果に驚いています。しかしまたいつ白化現象に見舞われるかわかりませんし、気候変動で台風が強まると、海流も強まり大岩が流れてきて全て破壊されるリスクもあります。この場所のサンゴ礁が自然に再生されることを願い、今後も調査を続け、新たな守る手法を考案し続けます。」
―実は今回、この区切りとなるタイミングで、伺いたいことがあります。ドクターブロナーは、人間も動物も植物も、同じ「地球」という名の船に乗るひとつの家族と考え、ソープを通して世界を変えることを目標とする“オールワンビジョン”という指針があります。それは言い換えると「まるっと変えよう」というスローガンになるのですが、なぜ私たちの活動に内藤さんが賛同してくださったのか。その経緯を聞かせてください。
「3年ほど前、とある人を介してドクターブロナーの方々とお話しさせていたく機会があったのですが、そのときに思ったのは “こんなにもサンゴに興味を持ってくださるんだ”ということ。スタッフの方々がサンゴへの熱い思いと、マジックソープに対する溢れる愛情を語っていたのを覚えています。そのときにオールワンビジョンのお話を伺い、その価値観が素敵で泣きそうになるくらい感動しました。
私自身、中学、高校のときから環境のことに興味があり、その頃からサンゴ礁保全の団体に寄付をしていました。生活排水への対策や脱プラを意識し、石鹸一つで頭から体まで全身を洗うような、今思うと痛いくらい意識が高い子でもありましたが、前述のドクターブロナーが描くオールワンビジョンは、そんな子ども時代に思い描いていた社会や未来が体現されるものでした。だからキャンペーンのお話をいただいた時には嬉しくて、二つ返事で引受させていただいたのです。それが今日へとつながっています」
―ありがとうございます。これからも内藤さんと私たちが手を取り合い、サンゴを守ることでオールワンビジョンを具現化していければと思うのですが、今後の展望はありますか?
「たくさんあります。ひとつたとえ話をさせてください。私が信頼するある先生は、“サンゴ礁は人間社会の通信簿だ”とおっしゃいます。人間が環境に対してしっかり考え、対策を取ればオール5が取れるし、やるべきことを怠ったらオール1にもなる。海やサンゴ礁は、人間社会そのものを映し出すのです。ですから小さな活動でも、どんなことでもいいので、目の前のことをコツコツ、ひとつひとつ積み重ね、今回のような明るい結果を出し、発信し続けたいですし、講話会なども行いたいです。」
昨年のコラムから1年ぶりとなる今回。内藤さんとのオンラインインタビューから、「#サンゴ再生チャレンジ」のハッシュタグキャンペーンによる針金とネットの取り組みは、良い結果が見込めて一安心しました。今回の結果と合わせて、みなさまの「#サンゴ再生チャレンジ」への参加に改めて感謝したいと思います。
そしてその先にいつも思い知らされることであり、忘れていけないこと。
それは、私たちが暮らす地球の大部分を占める海には、サンゴ礁のシビアな現状をはじめ、さまざまな問題が広がっていること。もう現実逃避する猶予はないので、今年もアースデイをターニングポイントのひとつとし、小さくても「今、自分に出来ること」を考えてみましょう。そしてドクターブロナーがその選択肢の一つになれるよう、これからもオールワンビジョンのスローガンのもと、精進していきたいと思います!
写真提供
Akira Naito
■プロフィール
内藤 明/Akira Naito
ユニスク 代表
石垣島エコツアーりんぱな 代表
日本サンゴ礁学会所属